これが志ん生だ（二十）

1. 子別れ
2. 寄席のおはやし集

子別れ

冒頭で志ん生が言っているように、このはなしは普通、上・中・下と三つに分けて演じられている。「上」は別名「強飯の女郎買い《こわめしのじょろうかい》」あるいは「強飯《こわめし》」、「下」は「子は鎹《こはかすがい》」と呼ばれている。「中」には別名はない。
それを志ん生は上・中・下通しで一気に演じてしまった。こういうやり方は珍しい。昭和三十六年二月十五日、ニッポン放送から一時間番組として放送され、前後に女優の南田洋子との対談がついていた。その中で志ん生は面白いはなしをしている。
二十五ぐらいの若いとき、甲府の寄席でこのはなしをやったところ、下足番のじいさんが「師匠、あの『子別れ』はね、あすこんとこは、ああやらないほうがいいな」という。下足番のくせに生意気なことを言うと思ったら、そのじいさんは元噺家で、真打にまでになった人だった。昼間は田圃で鳥を追っているというので、翌日、田圃の中のきたない小屋で、「子別れ」を直してもらった。はなしをしていると、トカゲなんかが上がってきたという。若いときの志ん生の姿が、目に浮かんでくる。

寄席のおはやし集

（解説無し）