短編小説「黄金の稲穂は揺れる」（3）

短編小説「黄金の稲穂は揺れる」（3）

第3回

1

日が暮れるが早く、どこに潜んでいたのか冷たい空気が静かに染み込んできた。立夏が過ぎ、小満が訪れたいうのに天気は依然と薄ら寒かった。

敬愛する金正恩総書記は服の裾から染み込む冷たい空気も感じずに庭園を歩いていた。すぐ前に立っている風雅な趣のメタセコイアが目に入ってきた。

葉が青味を帯びてき、厳しい冬が過ぎさり、暖かい春が到来するとみなに知らせるかのように、以前よりもっと青く見えた。

春が来るが早く、力いっぱい水を吸い取り、生気を取り戻したおかげである。

メタセコイアに近づいた総書記は日差しの形をした葉に触ってみた。

すがすがしい気運がソフトでありながらふくよかな葉を通して感じ取れた。

自然の純理とは何と不思議なものだろう。毎年、訪れては又来るけれど、少しも飽き飽きせず斬新に感じ取れるからだ。それで自然とは調和が取れたものだというのだ。

総書記はメタセコイアを眺めて考えた。自然の木々も一冬越したら一層青くなろうとするのに、人間というのはなぜ過去を繰り返そうとするのか。

ただ今、総書記はカンミョン里の被害復旧対策案を見て、重い気持ちで庭園に出たのだった。

葉を手にした総書記は、尖がり帽子（とんがりぼうし）の木の梢の向こうの空を見上げた。あの空のかなたに被害を受けたカンミョン里の所在地村があるだろう。地図では探せない名もない小さな村・・・

カンミョン里・・・行ってみたこともない。けれど、そこもこの国の農村の一部分で、この地を愛し、真心込めて耕す人たちが住んでいる。なのに、どうしてその人たちの家を修繕だけするのか・・・

カンミョン里が突然の雹と強風で多大な被害を受けたという知らせを聞いたのは、緊張した現地指導の日程を終えてピョンヤンへ戻ってくるときだった。

それを聞いた総書記は同行のパク・チンス副部長をその場で現地に送りながら、被害状況を具体的に調べる任務を与えた。

ピョンヤンに着いてすぐ、被害状況のビデオとともに報告があった。

屋根が剥がれ、押しつぶされて見るにも凄まじい家々、垣根がごっそり倒れて家全体が今にも倒れそうなのもあった。四方には折れた木の枝が飛び交い、割れた瓦があちこちに散らばって、文字通り、殺風景だった。古びた家々なのでその被害が一層ひどいのが一目で分かる。

総書記は人民軍区分隊に命令し、人民と共に被害の整理をし、復旧準備を整えるようにした。その後、被害復旧対策案を受けると全てのことを後回しにしてそれから研究した。しばらくの後、対策案を具体的に研究した総書記は執務室から出た。

総書記はカンミョン里の全景を描いてみた。小高い丘のふもとにこじんまりとした家々が並び、村の入り口には歩哨のように大きな木が立っている。その前には小川がさらさらと流れている。

夕方にはさっぱりした垣根をめぐらした家々の煙突から煙が昇り、テレビから流れるメロディーに混ざった楽しい笑い声がひとつの風景のように聞こえてくる。

ぱっと開けたある家の窓辺から流れる子供の歌声に村全体がリズムを合わせて答えているようだ。

（コンテンツ―本）