短編小説「黄金の稲穂は揺れる」（1）

短編小説「黄金の稲穂は揺れる」（1）

第1回

夕暮れになってカンミョン里からの電話を受けたキム・ヨンテはびっくりした。

（村が被害を受けるとは？）

ヨンテはせわしく聞きなおした。

「詳しく言ってくれ、どうしたというんだ」

作業班の技術係である娘のヒョンアがめそめそしながら後先のいきさつを話した。

・・・5月18日の15時ごろ、時ならぬ雹とともに強風がカンミョン里を襲った。里の文化会館が倒れ、子供たちの学校が被害を受けた、そして公共施設と多くの住宅の屋根瓦が吹き飛ばされ、屋根がへっこんでしまった。

野原で雹にあった牛は一日中、餌を食えないくらいにへたばってしまった。

強風が通り過ぎたところは青味というものを失った。一週間後には刈り入れに入るはずだった麦と小麦は影も形も無くなり、苗代の苗とトウモロコシ、ジャガイモの畑も無くなってしまった・・・

ヨンテは目の前が真っ暗になった。家が倒れるとは。

一番先に目に浮かぶのはチンチョルの母の家だった。息子のチンチョルが軍隊に出た後、その母親は一人暮らしだったが、家の手入れが要るときはヨンテのところに訪ねてきて助けを求めていた。久しい前にヨンテが軍隊から除隊して身を固めたとき、その母親と一緒に住んのだが、その情からであろう。

もともとその家は古びて、たびたび手入れをしてきたのだが、恐らく今度は少なからぬ被害を受けたのだろう。

いや、その家だけではないだろう。多分、村の全ての家が同じく被害を受けたのだろう。

村の痛々しい有様を自分なりに描いてみるほど、ヨンテは呆然となるだけだった。よりによって留守の時にこんなことになったのだ。季節外れの雹もそうだけど、強風まで吹いたとは。

受話器をぎゅっと握っていたヨンテはじっとしてはいられなく、また受話器を耳にした。

そして言った。

「今すぐ農場に帰るから」
「どう帰ると言うんですか」
「だからと、じっとしていられるか。村がめちゃくちゃなのに・・・」

ピョンヤンで在学中のヨンテはしばらく考えた。今すぐ帰ると言っても、大して足しにはならない、けれど農場の管理職たるものが手を拱いているわけにはいかないじゃないか。学校ではカンミョン里の被災状況を知っていたし、また、ヨンテが切々と願い出るので相談の末、ヨンテに暇をあげた。

ヨンテは夜通し歩いて明け方、村に着いた。おぼろげな光を受けて目に入る村の全景は悲惨だった。電話で聞いたより事態はもっと凄まじかった。

文化会館は跡形もなく、屋根が丸ごと剥がれた家は数え切れないほどだった。チンチョルの母の家の方に足を運んでいたヨンテはふと立ち止まった。家が見えなかったからである。壁だけがぽつんど残っているのを見ると何か重いものが肩を押さえつけた。

それでも胸の中にひょっとしたらという未練が片隅に居座っていたヨンテは、期待はずれのむなしさに気づき、村に入る勇気を失った。村に入れば胸がもっと痛むだろうと思ったのだ。

（コンテンツ―本）