コリョ紙

高麗紙

5千年の歴史を誇る朝鮮民族が生んだ数々の文化財の中には、長い歴史と共に誇らしい発展の道を辿り世界に名を馳せたコリョ紙、つまりコリョの紙もあります。

コリョ、高麗は918年から1392年まで存続した朝鮮初の統一国家です。この時の文化はかなりの発展を遂げていました。世界初の金属活字を発明して出版業を興し、色や文様・形がユニークで世人に重宝されたコリョ磁器を生み出し、火薬も発明して威力ある色々な火薬兵器も製作しました。これと共に伝統的な製紙技術に基づいて多用な良質の紙も多量生産されました。

キム・ソンジュク教授書下ろしの本『民族の誇り・コリョ紙』です。歴史と技術の2編に大別される本には朝鮮に於ける紙の発展の歴史と、その伝統的な製造技術が歴史の面で詳細に書かれています。

ハンドクス・ピョンヤン系工業大学の教員、教授、博士キム・ソンジュクさん。

「朝鮮で紙の遺物の殆どがピョンヤンとその周辺地域で出土しました。朝鮮人民の生活に紙が広く利用されたことを見せる壁画古墳もこの一帯で発掘されています。本を著すための歴史的事実を研究するうち、この点に注意を払いました。そして、古代文明の発祥地で、古代文化の中心地だったピョンヤンが朝鮮で紙の発祥地であることを論証するに至りました」

ピョンヤンの都心を流れるテドン川流域は清い水と広くて肥えた平野、豊かな物産、温和な気温で、早くから住み良い所として知られていました。祖先は人類史の黎明期からこの地域に定着し、テドン川文化と名づけられた古代文化を創造し絶えず発展させて来ました。

古代にアジア初の国家を建てシンジという文字を創生しました。民族固有の文字であるシンジ文字は朝鮮民族が住む全域で広く使われました。当時の書き写しには色々な材料が使われましたが、これ等の材料は使いに不便で制約も色々とあって社会と文化上の需要を満たす事が出来ませんでした。これは紙が製造されて初めて解決されました。

紙の原料にはコウゾやクワの木皮繊維、大麻繊維等色々な物がありました。中でも最も長い伝統を持つのがコウゾの木皮繊維です。コウゾの木皮には紙の製造に最も必要な成分である繊維素が多量含まれ、繊維を結合させる物質であるリグニンは少量が含まれていて保存性に優れています。そればかりかコウゾは毎年晩秋と初冬に収穫し、翌年は切り株から新しい枝が何本も生えて夏に青々と育つのでとても環境に優しいといえます。その為コリョではコウゾの木皮が理想的な製紙原料となりました。全国的にコウゾの栽培と民間製紙術を奨励し独特な技術を適用して良質の紙を量産しました。

サリウォン歴史博物館の学芸員チェ・ソンイルさん。

「ピョクランドというところはコリョの名だたる貿易港のひとつでした。当時、ここでは世界各国との貿易が活発に行われましたが、ピョクランドで貿易船の往来がどれほど頻繁だったかは、『来る船行く船　後を絶たない』という昔の古い詩を見てもよく分かります。ここでは朝鮮人参、金銀細工、高級な焼き物、絹、筆、墨、硫黄といった商品が多く輸出されましたが、中でも主たる輸出品のひとつがコリョの紙でした」

朝鮮の紙はどの時代を問わず、柔らかくて丈夫なのが特徴で、特に欧州の書庫で目にするコリョ時代の書物には少しも黄味がかったものがなく、むしばんだところも全くない
（1894年、パリで出版された「朝鮮書誌学」より）

コウゾの内皮で作った丈夫で白いコリョ紙は品質の良さと実用性で、当時周辺諸国はもとより欧州にも広く知られました。

民族遺産保護局の副局長ロ・チョルスさん。

「民族の優れた文化と伝統を極力生かす共和国政府の一貫した努力により、昔の紙の遺物が元通り保存されています。またコウゾの木皮繊維を原料として良質の紙を生産したコリョの伝統的な製紙技術は国家無形文化遺産に登録されました」

種類も多様なコリョ紙は印刷や書画・工芸品の材料等、広い分野に使われています。特に朝鮮画という絵画の創作に欠かせない貴重な材料となっています。

マンスデ創作社の美術家ムン・ジョンウンさん。

「コリョ紙は、鮮明で簡潔な画法と柔らかくて鮮やかな、また明瞭な色合いを持つ朝鮮画の特性を生かすには持って来いの紙です。色がよく滲んで朝鮮画の迫力ある筆致が発揮できるばかりか、色が充分に、また均等に滲むので没骨など朝鮮画の技法にとても適した紙です。そして、純白で柔らかいので朝鮮画のほのかで優しくエレガントな効果を十二分に表し、保存性に優れていて、作品の長期保存も可能です」

長い伝統を持って代を継いで発展し民族の叡智を轟かせたコリョ紙。コリョ紙は5千年の歴史と燦然たる文化を持つ朝鮮民族の誇り、尊い宝となっています。

（観光）