美しい思い出とともに

美しい思い出とともに

「若い時は夢の中、老いると思い出の中」と言います。

喜びと悲しみがすれ違うと言っても、今日は昨日を、明日は今日を楽しく振り返らせるこの思い出は、心の中から鳴り響く美しい人生のこだまと言えます。人生の跡とも、一生のメモ帳とも言える思い出多いアルバムを一枚一枚めくっていますと、60数年前の事がありありと目の前に浮かんできます。

戦争。人の夢と希望、大事なもの全てを奪い去るこの流血の惨劇を、私は幼くして経験しました。国の解放の聖なる偉業の為に、二度と植民地奴隷になるまいと、この地の多くの人々が勇敢に戦って倒れました。

戦争は私の父と母の命も奪いました。戦争の惨禍の中、両親を失った子供達ほど惨めなものはいません。両親の死は幼い私にも大きな衝撃と悲しみを与え、心の中に深い傷痕を残しました。ですが、心の傷痕を癒してくれる暖かい日差しがこの胸に降り注ぎました。戦争最中にも戦災孤児が何不自由なく育つよう、国の措置が執られたのです。

全てが足りなく苦しい中にも戦災孤児に四季折々服を贈り、幸せの歌を歌いながら悲しみを知らずに暮らすようにしました。まだ幼い私だったので、親の愛情にも勝る偉大な愛情が私達を温かく見守ってくれるとは知りませんでした。

偉大な金日成主席は「戦災孤児をこれ以上苦しませてはならない」と言って、兄弟の社会主義の国々に送るよう恩情こもる措置を執りました。それで私はチュチェ42年（1953）、友達と共に当時の東ドイツのドレスデン市のマクシム・ゴーリキー学院に入りました。

学院の先生達は優しい方々でしたので親のような温かみを感じ、何の気兼ねなく暮らしました。何か特別なものがあれば先に私達に贈り、踊りも教えて格別面倒を見てくれました。でも生まれ育った故郷が懐かしく、亡くなった父と母が偲ばれてならず、常に寂しさを感じていました。その私に、一生の思い出となる幸せの日が訪れました。

チュチェ45年（1956）6月10日、その国を訪問した金日成主席がマクシム・ゴーリキー学院を訪れたのです。その日は朝から小雨模様の天気で道はぬかるんでいました。その上訪問のスケジュールも詰まっていて、とても疲れているはずの主席が私達に会いに来たのです。私達は感激の涙を流し「お父さん！」と呼んで主席に抱きつきました。

キム・チュンオクさん（78歳）の話。

「この日、主席は私たちの将来を祝福し、国の柱になれという直筆も残しました。主席が乗った車が発つ時、その後を追う私たちに、主席は車窓を開けて手を振りました。私たちはもう一度主席に会いたくて近づきましたが、主席は片手を目元に当てて涙を拭いました。私たちを異国に残して出発する主席の心はどんなに辛かったでしょう…。主席の姿は優しい父親そのままに私たちの心の中に深く刻まれました」

その後私達は、優しい父親、母親の深い愛情を常に身近に感じ、元気良く暮らしました。異国にいても寂しさを感じず、空高く翻る共和国の旗の下、英雄朝鮮の息子、娘らしく逞しく育ちました。

その時から60年以上も過ぎました。主席の愛情こもった頼みを肝に銘じて、私達皆は頑張り続けて国の担い手に成長しました。英雄称号受賞者、博士も輩出しました。

私は希望通り大学を卒業して数十年間大学の教壇に立ちました。私と共に教鞭を取っていた夫は学長を勤めました。息子と娘も大学を卒業し、孫達も今大学で学んでいます。戦争で両親を失った私ですが、今は我が子と孫の自慢をして余生を楽しく送っています。

毎年6月ともなりますと家族の人皆が集まって、異国で主席に会ったその日の事を感動深く思い起こしています。そして昔なら不幸の代名詞と呼ばれたはずの私達孤児が、今のように幸せな生活を営む事が出来ただろうかと自問します。

また朝鮮労働党の深い思い遣りによって、親の居ない子供達の為に国中に立派に建てられた愛育院と育児院、初等学院、中等学院で、将来の科学者、英雄、パイロットになる希望を抱いて元気良く育つ子供達を見て、その明るい未来を思い描いています。

人誰もが、美しい思い出を抱いているのではありません。偉大な指導者に導かれる偉大な国の公民である朝鮮人民ならではの事で、私達戦災孤児にも一生忘れられない思い出があります。

この地に生きる人皆に、このように美しい人生の思い出を与えた社会主義のこの国に、深く感謝するだけです。

（今日の朝鮮）

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