昔話「魔法の臼」

昔話「魔法の臼」

昔々、ある王様が魔法の臼を持っていました。
その臼は、見た目には普通の臼と同じですが、誰でも願いを言うと独りでに回りながらどんな物でもみな引き出す魔法の臼でした。

ある日、自分は死ぬまで王様に忠実に仕えると口癖のように言っていたある臣下が宝入れに入れておいた臼をそっと盗みました。
服を着替えて夜通し歩き続け、幸いなことに王宮から抜け出はしましたが、物を盗んだ臣下は一時も心が休まりませんでした。
向こうから来る人が自分を見つめても身が縮み、後ろからついてくる人がその臼をどこで買ったのかと聞きさえしても胸がどきどきしてたまりませんでした。

（王が臼をなくしたことを知ったら国中に広告を出して、泥棒をすぐ捕まえようとするだろう）
つかまった日に首を斬られるのは当たり前のことでした。
（どうやったらうまく抜け出られるだろう）
いくら考えても、重い臼を背負って遠い道を行くのは無理でした。
力も余るし、人に会うのもいやでした。
それで臣下は考えた末、海に出て船に臼を乗せていくことにしました。
船路でいけば遠回りはしても、その代わり、人に出会うことはないので気が休むと思いました。
臣下は海に出て船を盗んでは臼を載せ、一所懸命魯をこぎました。
ちょうど風も程よく吹いて、海の真ん中に来ました。
臣下は、気が楽になり、安堵の胸を撫で下ろしました。
もう自分ひとりだけだから、臼を盗んだと王に告げ口する者もいませんでした。
ですから、臼を故郷に無事持って行ったのも同じでした。
魔法の臼を手に入れたのがあまりにも嬉しくて、臣下は踊りを踊り、歌を歌いました。

エヘー　よいとこ
この臼だけあれば
王も羨ましくない
金貨　銀貨　出てこい
白米　もち米　出てこい

一曲歌を歌うと、今すぐ試しに願いを言って見たくなりました。
（金の塊にしようか、銀の塊にしようか、ハハ、それもいいけど、それは家に帰って引き出そう、では何を願おうか）

一人でもぐもぐしていた臣下はひざを打ちました。
「そうだ、塩を出してもらおう」
遠い昔は塩が非常に重宝され、値段も高かったのです。
それで塩の値段が金の値段とまで言ったのです。
「臼よ、魔法の臼よ、真っ白な塩を続々出してくれ」
スルスル音を出して一回りすると塩が一升、また音をだしてふた周りすると2升・・・
「本当に塩だな、まあ味をみよう、やあ、塩だ」
臣下はうれしくてたまりませんでした。
臣下がこれから金持ちになる夢を見る間に、塩が船いっぱいにあふれて、船は海に沈み始めました。
「臼よ、もうこれで良い、休め」
でも臼は臣下の言うことを聞いたのか聞かなかったのか、休みなく回りながら塩を出しました。
臣下は臼を回す方法だけを知り、止まらす方法は知りませんでした。
しばらくして船は深く深い海の底に沈んでしまいました。
臣下は波に浮かんで命拾いしようともがきましたが、二度と浮かび上がることができませんでした。
臼は海の底に沈んだ後も、ずっと塩を出しました。

そのときから今日まで魔法の臼は休みなくスルスル回りながら塩を出したので、どれだけ多くの塩を出したのでしょうか。
それで、地球上の海水はみな塩水になったと言います。

（コンテンツ―本 2022.10.31）