昔話「野良仕事を手伝う犬」

昔話「野良仕事を手伝う犬」

昔、意地悪で怠け者の兄と正直で勤勉な弟が隣同士の村に住んでいました。

弟は独りぼっちの寂しさに、子犬一匹を求めて大事に育てました。犬小屋にわらを敷いてやり、餌がないときは自分の食べる粥まで分けて与えました。
それで子犬は弟から離れようとしませんでした。

一年が過ぎると子犬は大きくなり、弟の言うことをよく聞きました。
ある日、畑でキュウリの種をまく弟と一緒にいた犬は、細道に荷物をいっぱい背負って来る旅人を見ると吠え立てました。
吠える犬を見て、旅人が腹を立て石を投げた途端、犬がワンと飛びつきました。
後ずさりしながら石をまた投げる旅人に弟は言いました。

「この犬は僕の野良仕事を手伝うんです。そんなにして犬に噛まれたらどうしましょう」
旅人は弟の話を信じず、犬が野良仕事をどう手伝うんだ、こんな荒々しい犬はたたき殺さなくちゃだめだと言いました。
「この犬が野良仕事をどう手伝うかは今見れば分かるでしょう、もしそれが嘘だったら犬を殺してもかまいません」
「そうか、犬がお前の仕事を少しでも手伝うんだったら、俺の背中の絹をみな上げる、しかしそうでなかったらどうする？」
「僕の家と畑をあげます」
弟がキュウリの種をまいていくと犬はその後ろについてきながらキュウリの種に足で土を被せるのが、人がするのと別段違いがありませんでした。
犬は仕事が終わると手ぐわやら、あじかやらの農具をくわえて倉庫に運びました。それを見た旅人は野良仕事を手伝う犬を珍しそうに眺めました。

「本当に利口な犬だな」
旅人は自分の絹をそっくりそのまま上げながらも惜しい気配を見せませんでした。
弟がいたずら半分で言ったことなのに、持っていきなさいというと、旅人は「お前は私をうそつきにするつもりなのか、犬の仕事ぶりを見ると絹がぜんぜん惜しくない、犬が勤勉な主人に似たようだな」と言って、絹を残して去りました。
弟は絹を売って瓦屋と牛を買いました。
ある日、兄は弟のうわさを聞いて、自分もうまい汁を吸ってみようと弟の家に来ました。

「この犬を俺が何日間借りるぞ」
「どうしてなの」
「俺もお前のようにぼろもうけをして立派な暮らしを立てなくちゃ」
犬を自分の財産を増やすのに使おうとする兄のことが気に食わなかったのですが、弟は黙って犬をあげました。
犬を連れて畑で仕事をしていた兄は、遠くから絹を背負ってくる人を見ると、犬に吠えろと叫びました。

犬は見知らぬ人を見ると吠え始めました。
兄は内心、事がうまく運んでると思いました。
絹の商売人が吠える犬に石を投げると、兄は走り出て叫びました。
「この犬は俺の野良仕事を手伝ってるんだ、犬が少しでも傷つくなら放っておかないぞ」
「犬が野良仕事を手伝うのか、変なうそをつくんだな、そんなうそはつかないで、荒れる犬を殴り殺して」
「信じられないなら犬の仕事振りを見るんだ、犬が仕事をすればあなたはどうする？」
「この絹を皆あげるぞ、しかし犬が仕事をしなかったらあなたの畑を私に渡すんだな」
「そうしよう」
二人は約束しました。
兄は畑に種をまきましたが、犬は仕事をせずに商売人をみて吠え続けました。
「こいつ、早く種を埋めろ」
いくらあやしたり、ぶったりしても犬は聞き入れませんでした。
兄のしぐさを見つめていた商売人はあっけに取られて笑いました。
「ハハ、あなたはうそがうまいですわい、約束どおりにしましょう、畑を出しなさい」
兄は自分がした約束なのでしようがなく畑を商売人に渡して、無一文になりました。
絹はおろか損をした兄は、その腹いせに犬を殴り殺しました。
これを知った弟は死んだ犬がかわいそうで、自分の家の庭に埋め、その上に竹を植えました。
弟は木を見るたびに死んだ犬を思い出し、ため息をつきました。
弟の気持ちを知ったのか、竹は空高く青々と育ちました。
ある日、弟は「チャリンチャリン」という音がするので、戸をあけて外へ出ました。そしてびっくりしました。

なんと木から稲粒ほどの金の粒が流れ落ちるのでした。
弟の家の竹から金の粒が流れ落ちるとのうわさを聞いた兄はやきもちを焼きました。
兄は自分も金の粒がほしくて、犬の墓から骨を掘り出して、自分の家の庭に埋めた後、そこに竹を植えました。
木は空高く育ちました。

今か今かと木から金の粒が落ちるのを待っていた兄の額に何かが落ちました。兄はあまりにも嬉しくてそれを掴みましたが、それは石ころでした。かんかんになった兄は木を斧で切り倒そうとしました。
しかし、木から流れ落ちた土と石ころは、意地悪で欲張りの兄とその家を埋めてしまいました。

（コンテンツ―本）