昔話「知恵のある子」

昔話「知恵のある子」

昔ある村に、知恵のある子がいました。
この村には財産がいっぱいある欲張りの金持ちがいましたが、金持ちは自分の財産を増やすため貧乏な人たちをいじめました。

ある日、金持ちは、退屈だったのか、その子を呼んでは、「お前は大人顔負けのうそつきだそうだが、まあ、一度うそで俺をだましてみろ、だましたらお前に褒美をくれるから」と言いました。
金持ちの下心を見抜いたその子は知らん顔をして、「誰がそんなうそをついたのですか、それは何も知らない人の話です、私は返って正直過ぎるんですよ」と言い、家の前を通り過ぎて山に登りました。

山に登っていたその子は、金持ちの太った女房が輿に座って坂を下っているのを目にしました。
蒸し暑いので使いの者たちは汗だらだらなのに、金持ちの女房は輿の中に座ってうちわを扇いでいました。
これを見たその子は、あまりにも憎たらしくてひやかしてやりたいと考え、背負子をはやしに隠して輿の前にかけて行きました。
「奥様、どうしたらよいでしょうか、お宅の主人が朝飯がつっかえて死にそうです。最期の言葉を残すから、と奥様を呼んでいます」
それを聞いた女房は、使いの者たちに催促しました。
でも、使いの者たちは坂道を早く下りることができません。
それで、女房は輿から降りて、足に絡みつくチマを掴んで、あたふたと走っていきました。
これを小気味良く見ていたその子は、女房より先に金持ちの家に着くため早道を選びました。
金持ちの家の大門の前でその子は、中から聞こえる声を聞いて怒り心頭に発しました。
金持ちが自分の畑に草取りに来なかった農民を呼んで殴打していたのです。
「だんな様、奥様がトラに銜えられて行きます、さ、坂道で・・・」 「何だと」
金持ちが驚いてぽかんとしているところへ、「早く行って見なさい、どうしてぼやっとしているんですか、奥様がトラに銜えられて行っているのに」、という声がかかりました。
その時になってやっとわれに返った金持ちは、一目散に走っていきました。
打たれていた農民たちはこれとばかりに喜んで散っていきました。

走って行き、走ってきていた二人は、山のふもとでばったり合って目を丸くしました。
「あ、どうしたんだ、トラに銜えられたとは」
「トラは何のトラなの、トラなんか見たこともないわ、だけど息が切れそうだといったあなたはどうやって生き返ったの」
「５，６月のバッタのように飛び跳ねても、心配させるのか、あ、俺が早死にするのを見たくて驚かすのか」
「誰に向かって声を張り上げてるのよ」

二人はぐでんぐでんになるまで張り合ったあとになって始めて、その子にだまされたことを悟り、憤慨しました。
金持ちの女房は、生まれて始めて亭主からうんと打たれたことが悔しくてたまりませんでした。
「あのチビ公め、俺の手に捕まってみろ、骨を砕いてやる」
金持ちは四方八方その子を探し歩きましたが、探し出すことができません。

数日後、その子が金持ちを訪ねてきました。
「あの、僕にくれると言った褒美を貰いに来ました」
その言葉に金持ちは怒鳴り散らしました。
「このくそめ、大人をそんなにだましてもなんだと、散々鞭を入れて気を取り戻させる」
「うそはだんな様がさせたのでしょう、大人が子供とした約束は守るべきでしょう」

いくら面の皮が厚い金持ちでも、自分が言ったことがあるので、うんともすんとも言えず、その子に褒美をあげました。

（コンテンツ―本）