昔話「ニセ大将」

昔話「ニセ大将」

昔、昔ある村に、ある夫婦が子に恵まれずにひっそりと住んでいました。
子が欲しくてたまらなかったのですが、いよいよ待ちに待った男の子が生まれました。
ですが、なんとその子は普通の子とは違って育ちが早いのか、ぐんぐん大きくなりました。
5つの時には、体が大きな甕（かめ）のようになり、10になっては雄牛のようになりました。
村では、大将が生まれたと大騒ぎでした。
でも、この大将は体と食欲に比べては力が弱かったのです。
持ち上げるのはやっと、小さな槌ぐらいでした。

両親は、あきれてものも言えませんでした。
そして、ニセ大将の息子をそのままにしておいては、馬鹿になるようで山奥の書堂に送ることにしたのです。
息子は両親と別れて字を習いに遠路にたちました。
息子がある村を通るときでした。
村人が息子を見ては、村に大将が現れて助かったと、喜んで迎え入れました。
そして、牛や豚をつぶすんだと大騒ぎをしました。

ニセ大将は、村人がどうして自分をこれほど大歓迎するのかがおかしくても、道中、腹が空いていたので、くれるものはみんな食べてしまいました。
翌朝、急いで村を発とうとすると、村人が息子の手を取って、村の恨みを晴らしてくれと頼むのでした。
この村の裏山の大きな洞穴に、雄牛より強いあくどい怪物が住んでいたのですが、怪物は毎年、5人の娘に5頭の牛、10匹の豚、10斗の米をさらっていったのです。
ニセ大将は困りました。図体は大きく大食いでしたが、やっと槌ひとつ持ち上げるのがせいぜいだったので、自分が怪物と戦うなんて考えも及ばないことでした。
でも、面目を保つため、村人の前でそいつをさっそく倒してやると言ってしまいました。
次の日、体格の良い二人の若者が大きな長剣を持ってきては、昔、大将が使ったこの剣で、怪物の首を切ってくれと頼みました。

その長剣を見た瞬間、ニセ大将はあっけに取られましたが、顔には出しませんでした。
考えた挙句、小さな尖った槌を持っていくことにしました。
長剣は持ち上げることもできないので、若者たちが持ってあがるようにしました。
そして、長剣を自分の腰に差すようにし、洞穴の外で矛先を入り口に突きつけさせました。
その次に、尖った槌で怪物の額を叩きました。
怪物は、手で何回かこすっては、またグーグー寝込みました。
もっと力を入れて叩いても、うんともすんともしません。

今度は、両手でありったけの力を振るいだして叩きのめしました。
そして、槌をすばやく隠して小指を差し出しました。
怪物が悲鳴を上げて大きな目を開いてみますと、なんと大きな体の大将が小指で自分を叩こうとしているのです。
怪物は、この大将は、小指の力がそれほどだから、本当の力を出すと、どれだけ怖いかと考えて、跪きました。
こうして、ニセ大将は、村人の恨みを晴らしました。
又、歩き始めたニセ大将は、ある村で相撲試合にぶつかりました。
そこの人たちはニセ大将が相撲取りだと思い、相撲場に連れて行きました。すると、相撲取りはみな怖気づいてしまいました。

ニセ大将は、ズボンのすそを巻き上げる振りをし、審判席の椅子に片方の足を置きました。
そのとき、椅子が木っ端微塵になりました。
相撲取りたちは、逃げてしまいました。
こうして、ニセ大将は相撲もせずに優勝しました。
一方、このとき、この村に海の向こうから外敵が襲い掛かりました。
人々は、村を守るためこぞり立ちました。
力は弱くても自分の威厳と知恵に頼るようになったニセ大将も、命をかけて外敵に打ち勝とうと、戦いに出ました。
ニセ大将は、山の頂に陣を張り、あちこちに石の山を作らせました。
外敵が山を囲んで四方から這い上がってきました。
ニセ大将の命令に従い、村人は喚声を上げて石を転がし、多くの外敵を殺しました。
すると、外敵は一列になって弓を射ながら山に登りました。
石を転がしても一列なので、これといった戦果がありませんでした。
そのとき、心に決めるものがあったのか、ニセ大将は、深刻な表情で這い上がる外敵を恐ろしく睨み付けました。

しばらく何もいわずにいたニセ大将は、村人に向かって、自分の後を追ってこいと叫んでは、山のふもと目指して大きな体を転がしました。
すると、一列で上っていた多くの外敵が、ニセ大将の体に敷かれて死んでしまいました。
戦いは村人の勝利で終わりました。
その後、ニセ大将は消えてしまいましたが、この世にまたといない力と知恵、勇猛を併せ持つ立派な大将だったことだけは、長い間、語り継がれました。

（コンテンツ―本）