隣の家の美味しいキムチ

名作童話の絵本「隣の家の美味しいキムチ」

昔、ある村に、キムというお爺さんとチョンというお爺さんが隣同士に住んでいました。

キム爺さんの家では笑い声が絶えませんでしたが、チョン爺さんの家ではため息ばかり、どうしてでしょう。

それは、時となく愚痴をこぼすチョン爺さんのためでした。

ある年の冬でした、チョン爺さんはキム爺さんの家でお昼をご馳走になりました。

その日も、夕飯の膳をちらっと見たチョン爺さんは顔をしかめて言いました。

「なんでまた、気に入らないんですか」
「いや、食欲がないんだ、お昼に食べたキム爺さんのところのキムチが格別だったな・・・」

チョン爺さんは、おばあさんに、隣のキムチを取り寄せて来いとそそのかしました。

「まあなんと、自分のキムチがあるのに、どうして他人のものをもらって来いと言うの」

すると、爺さんは腹を立てました。

お婆さんは、仕方なく隣のキムチを貰ってきました。

キムチの一皿を瞬く間に平らげたチョン爺さんの顔がぱっと明るくなりました。

「お爺さん、それがそんなに美味しいの？」
「決まってるさ、キム爺さんのキムチは本当にピリッとするのに、うちのキムチはどうして、まずいのかな」

チョン爺さんは、舌をならしてお婆さんをたしなめました。

あくる朝、庭で垣根越しに覗いていたチョン爺さんが、またお婆さんに言いました。

「婆さん、隣の家内が台所に出たから行ってみな」
「まあまあ、あんたのために、面子が無くなるわ」

夜明けから、キムチを貰いに行くのが辛かったけれど、否応なしに出て行きました。

キムチの器を持って来ると、チョン爺さんはとても喜びました。

チューっと音を出してキムチの汁をすすったチョン爺さんは、「ああ、すっきりする、はあ、10年越しの胃のもたれも吹っ飛ぶみたいだ」と言いました。

その夜、お婆さんがご馳走を膳に並べましたが、くたびれ儲けでした。

キムチが、わが家のものだと聞いただけで、チョン爺さんは顔をしかめました。

「味もすっきりしないし、見た目にもやぼったい、これこそ居酒屋のキムチではないか・・・」

あくる日、お婆さんが出した膳はキムチのオンパレードでした。

大小の器に、いろいろなキムチが盛られていました。

瞬間、目を丸くしたチョン爺さんは、目に涙を溜めて笑いこけました。

「婆さん、カラスが行水をしたら白鳥になるのかな？ははは」

お昼になると、チョン爺さんはまた隣のキムチを求めました。

「あんた、他人のキムチを貰うのも1、2回で、程があるじゃないの」

すると、チョン爺さんは、膳を押し退けてしまいました。

隣のキムチがまた敷居をまたいで入ってきた夕方、チョン爺さんはひとしきり褒めちぎりました。

「婆さん、これ見な、キム爺さんのキムチは、見ただけでもよだれが出る、味も格別だ、形はまた絵のようだ・・・」

昼を抜いて腹が空いていた爺さんは、お代わりまでしました。

爺さんが残した隣のキムチのひときれを口にした婆さんは、首をかしげ、自分のキムチを隣に持っていきました。

その味をみた隣のキム爺さんの夫婦は大騒ぎです。

「やあ、こんなに美味しいキムチは初めてだわ」
「まったく、自分のは惜しいからうちのキムチをもらって行ったのかい」

次の日も、またその次の日も、チョン爺さんは引きもきらず愚痴をこぼします。

疲れ切った婆さんは、あれこれ考えた末、膝を打ちました。

「爺さんには負けましたわ、また行って来なくちゃ」

そして、裏庭でキムチを器に盛り、隣から貰ってきたようにして、膳に並べました。

「本当に、格別だ、キムチはこういう風につけなきゃだめだ」

婆さんは、たまりかねてぷっと吹き出してしまいました。

「はは、良くも知ってますね、これはうちのですよ」
「な、なんだと？だからおかしいと思ったな」

きまりわるくなったチョン爺さんは、二度と隣のキムチについて言えなくなりました。

だって、本当に美味しいのは、他でもない自分の家でつけたキムチだったからです。

それからというもの、他人のはみな良くて自分のは頭から悪いと思っていたチョン爺さんの愚痴をこぼす癖が無くなったとのことです。

（コンテンツ―本）

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