昔話「角が出た狸」

昔話「角が出た狸」

ある山に他人のものをうらやましがる愚かな狸が住んでいました。

狸は鹿がかけていくのをじっと見つめながら考えました。
「鹿は本当にすばらしい。あの格好の良い角があるから、だれも羨まないだろう、僕の頭にもあんな角があったらな・・・」
狸はまたウサギに会ってはこう言うのでした。
「もしもし、ウサギさん、僕はあんたを見るとすぐ惚れちゃうよ、どうしてあんたはそんなにすばらしい耳を持ってるんだい、僕の耳はあんたに比べりゃ、貧弱だな」
「とんでもありません、狸さん、おじさんの耳が僕のよりもっとすばらしいんですよ」
ウサギの言葉に狸は手を振り振り言いました。
「いやいや、いくらそうでもあんたのよりは醜いよ」
狸はイノシシに会えば口を羨ましがり、リスにあっても尻尾を褒めました。
そして、アナグマに会うとふわふわした毛皮を欲しがりました。
それで、自分にもそれがみなあったらな、といつも思いました。
ある日、狸は、川の岸辺で水に映った自分の姿を始めてみました。
「チェッ、僕がこんなに醜いのか、あきれてものが言えない、なんだ、この姿は、頭に角もなく、耳はどうして小さいのかな、口はぜんぜんへんちくりんだ、毛は長くボサボサしてる、尻尾はなんだ、エイッ、なんだこりゃ」

狸は家に帰って寝床に入ってもなかなか寝付かれず、美味しいものを食べても食欲が湧きませんでした。
「本当に僕は醜いのかな、こんな様では恥ずかしくて外に出歩けないよ」
狸は、こんな心配の連続で、とうとう病気にかかってしまいました。
狸の病気は日を追って悪化し、しまいにはやせこけて骨だらけになりました。
ある日、熊のおじさんがこのことを聞いて、くずの根っこをもって訪ねてきました。

「あんた、本当にやせたな、これを煎じて飲んでみな、くずの根っこは万病に効く名薬だよ、働き盛りに病気だけしてどうするんだね」
でも狸は頭を振り振り、くずの根っこを見向きもしませんでした。
「僕の病気は僕が知ってるんですよ、薬で治せる病気じゃないんです、どうしても僕はこの病気で死ぬみたいです」
狸の頬に涙が流れました。
「なんだ、それは、何の病気かいって見なさい、あんたの病気を治せるなら俺の胆嚢までも取り出してやるよ」
熊のおじさんは狸の病気を治そうと努めました。
「熊のおじさんはたくましく、ハンサムだから僕の心配を理解できないんでしょう。僕のように醜い者がこの世のどこにいるのよ。角もないし、耳も貧弱だし、口はなんとおかしいから、外を出歩けないんだよ」
狸はとうとう泣き始めました。
「あんた、それは簡単簡単、すぐそういったらよかったのに、ひとりで悩むのか」
こう言った熊のおじさんは狸の家から出て、山を回りながら狸の病気の原因を動物たちに話しました。
鹿は自分たちの角をひとつずつ取って大きく格好の良い角の一組をあげました。
ウサギは耳を少しずつ取って、長くすばらしい耳二つを作りました。
リスたちは尻尾を、アナグマは毛を少しずつ引き抜いて見栄えのある毛皮を、イノシシは口を少しずつ取って長い口を作りました。
狸の家に来た熊のおじさんは風呂敷を解きました。
これを見た狸は目を見張り、とこから飛び上がりました。
「これ、どうしたことなの」
「山の友達があんたのために集めたものさ」
熊のおじさんは狸の頭に鹿の角を付けてやりました。
又、狸の耳に長いウサギの耳、口にはイノシシの口、尻尾にはリスの尻尾、毛の上にはアナグマの毛皮を着させました。

「どうだ、見たまえ、まあ、すばらしいな、病気も治るだろう」
熊のおじさんはこう言って苦い顔をして帰って行きました。
狸は自分の姿が見たくなりました。
「そうだ」
川辺に走っていった狸は、清い水に自分の姿を映しました。
角も良し、耳も良し。
狸はあまりの嬉しさに草原でひょいひょい踊りました。

おかしな格好で踊りを踊る狸をみて、動物たちはあっけに取られて腹を抱えて笑いこけました。
そのようなある日、山でお祭りがありました。
動物たちはここかしこと座って自分が好きなものを食べながら楽しく遊びました。
狸は自分の立派な姿を自慢したくてたまりませんでした。
角が出た狸は先に同僚の狸たちの方へ行きました。
それを見た狸たちは目を丸くしました。
「何だ、お前は誰だ」
「僕を知らんのか、お前たちと同じ狸だよ」
「狸、僕ら狸にお前のような者はいない、耳を見たらウサギのようだな、ウサギのところへでも行きな」
狸はウサギのところへ行きました。
ウサギたちは角のある狸をみてびっくりしました。
「こいつを見ろよ、どこから来たんだ」
「僕はお前たちとおなじウサギだと、この耳を見ろよ、お前たちのと同じじゃないか」
「お前に騙されるもんじゃない、頭の角を見ると鹿みたいだ、さっさと鹿のところへ行ってみな」
角を付けた狸は仕方なく鹿のところへ行きました。
でも、鹿たちも狸を受け入れませんでした。
リス、アナグマ、イノシシたちの所へも行きましたが、こっけいな狸を受け入れませんでした。

角の出た狸はクヌギの木の下で一人ぼっちになって目をぱちぱちさせながら、楽しく遊ぶ動物たちを羨ましく眺めました。
角の出た狸はお腹が空きましたが、みなの所へいけませんでした。
狸は見栄ばかりに気を散らして、他人の角よ、耳よ、口よと付けたのが恨めしくなりました。
「僕のが良かったのに」
角の出た狸は考えた挙句、へっこんだお腹を抱えて、熊のおじさんのところへ行きました。
「熊のおじさん」
「オー、狸かい、それで楽しく遊んだかい」
「それでもおじさんが知らん振りしないでくれるのね、ありがとう、おじさん、元通りにしてください」
「ハハハ、そうして、また病気になったらどうする」
「違います、絶対病気にならないし、欲しがるものもないよ」
狸は熊のおじさんに涙で頼みました。
「角もいやだし、耳も、尻尾も、口もみな嫌いです。僕のが一番です。自分の物で友達と一緒に僕が好きな物を食べて暮らすのが一番良いということを今になって分かったの」
心底から自分を反省する狸から熊のおじさんは鹿の角やウサギの耳、リスの尻尾、イノシシの口、アナグマの毛皮をみな取ってあげました。
狸は自分の姿を取り戻したのがあまりにもうれしくて、熊のおじさんに挨拶をして友達の所へかけて行きました。

「ねえ、自分のものを大事にせず、他人のものを頭から良いと思った僕が馬鹿だった。許してね。僕は自分のものが一番だということを今になってはじめて知ったんだ」
友達はみな喜んで、戻ってきた狸を迎え入れました。

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