昔話「薬は木枕」

昔話「薬は木枕」

昔々、あるところに一人の金持ちが住んでいました。
彼には年老いて儲けた息子がいて、蝶よ花よと育てました。

しかし、その一人息子は13歳になっても暖かいところに寝たっきりでした。
食欲旺盛でぐっすり眠り、病気でもないのに、体を動かすのが億劫でした。
座ることもままならず、だるくて、だるくて、外へ出るときも他人が手を貸すありさまでした。

金持ちは大事な息子のためにお金を注ぎ込み、医院にも見せました。
しかし、どの医院も処方が下せず、そのまま帰るだけでした。
ある日、遠い山奥に住む年寄りが寄り道し、日が暮れたので一晩泊まらせてくれと頼みました。
金持ちは年寄りのみすぼらしい姿を見て断りましたが、病気も治せるとの話に家に入らせました。
年寄りは息子の脈をとり、手足にも触って見ました。
そして、木枕を二つ持って来なさいと言いました。
年寄りはドアを全て開けっ放しにし、みな外に出るようにと言いました。
家の人みなが外へ出ました。
袖を捲くりあげた年寄りは少し後へ引き、寝ている息子の脛を木枕で叩きました。

息子は悲鳴をあげ、布団を投げ出してぱっと跳ね上がりました。
年寄りが二番目の木枕をあげると、真っ青になって「助けて！」と叫び、外へ飛び出しました。
「ハハハ、もう病気は治ったな」
逃げ出す息子を見て年寄りは白い髭を撫で下ろしながら笑いました。
外にいた村人たちは、「あれ、あの子よくも走る」と驚きました。
年寄りが金持ちに言いました。
「余りにも体を動かさなかったのでかかった病気なので、これから百姓の子たちのように仕事もさせ、運動もさせなさい」

金持ちは、うんともすんとも言いませんでした。

（コンテンツ―本）