童話「少年と大蛇」

童話「少年と大蛇」

昔、ある村に病気の母と二人で暮らしている少年がいました。
母は息子に父のように村人のため戦わなければ、といつも言っていました。

ある年、欲張りのファンという地主が財産を増やすため岩山に登ったのが、大蛇を見て死んでしまいました。
その時から村人は大蛇を見た者は死を免れないと思うようになりました。
「ファン地主が大蛇を見てすぐ死んじゃったんだって」
「もう山にも思うとおりに登れないな」
少年もそれが気にかかりましたが、柴刈りをして売らないと米も、母の薬も買えないので仕方なくその山を上り下りしました。
ある日、裏山に柴刈りに行った少年は数百年も生きた大蛇を見つけました。
「大蛇を見たからもう死ぬんだな、どうせ死ぬんだったら大蛇と戦って死のう、大蛇を殺したら村人がどんなに喜ぶだろうか」
少年は、自分は死んでも村人のために大蛇と戦おうと固く誓いました。

山に登った少年は大蛇を縄で木に縛り付け、斧を振りました。
でも大蛇はびくともしませんでした。
かえって縄を切って木の天辺に登り、少年を飲み込もうとしました。
少年は稲妻のように大蛇の口の中に飛び込み、木の棒を押し込んで、刀で喉を片っ端からかき回しました。
大蛇はあわてて水の中に逃げてしまいました。
少年は屈することなく戦い、とうとう大蛇を殺しました。
大蛇の口の中から出た少年はつかれきった体を引きずって、岸に這い上がろうとしましたが、倒れてしまいました。

だいぶ時間が過ぎて気を取り戻した少年は、病気の母を思ってイチゴを摘んで家に帰りました。
家に戻った少年は母に自分が大蛇を殺したと言いました。
「お母さん、僕が死ぬのはどうでもいいけれど、一人になったお母さんがどうやって・・・」
母は息子を頼もしげに眺めて言いました。
「お前は死なない、地主は大蛇を見ると怖がって心配ばかりしてた、それで気が狂って死んだんだよ、他人のためによいことをする人は死なないんだよ」

大蛇を殺したという噂を聞いて、近所の人たちが集まって来ました。
「本当に偉い、お前が村の心配事を無くしたんだな」
村人はわれ先にと少年を抱いたり、なでたりして喜びました。

（コンテンツ―本）