昔話「金の斧と鉄の斧」

昔話「金の斧と鉄の斧」

昔、ある村に正直で勤勉なセドリという少年が男やもめのお父さんと一緒に住んでいました。
セドリのお父さんは、長い間、病気を患っていました。

それでセドリは毎日、芝刈りをしては薪を売ってその日暮らしをしていました。
ある日のことです。
その日もセドリは背負子を背負って山に登りました。
セドリは、高く太い木を鉄の斧で斬り始めました。もう少しで木が倒れようとしたとき、汗した掌から斧の柄が滑って沼に沈んでしまいました。
セドリは目の前が真っ暗になりました。

ひとつしかない斧をなくしたので、床に就いたお父さんの薬代とその日の薪の心配で胸がいっぱいになりました。
セドリはあまりにももどかしくて沼の岸を行ったりきたりしたあげく、地べたに座り込んで泣き始めました。
その時でした。
静かだった沼の真ん中から水がぐらぐらと沸き立ったと思うと、霧がむらむらと立ち込め、その中から髪の毛が真っ白いおじいさんがぬっと浮かびあがりました。
セドリはびっくりしました。
おじいさんは長く伸びた髭をなでおろしながらやさしく聞きました。
「坊やはどうして泣くんだ」
セドリは斧を沼に落として泣いていると答えました。
「泣くな泣くな、わしが捜してやる」
こう言っておじいさんは沼の中に消えてしまいました。

しばらくしておじいさんがまた現れました。
おじいさんの手にはぴかぴか光る金の斧がありました。
「これが坊やの斧か」
セドリは首を振って言いました。
「違います、僕のはそんなに良いものではありません」
おじいさんはまた沼の中に消えました。
今度は真っ白い銀の斧を持って出てきました。
「それじゃ、これがお前のか」
今度もセドリは首を振りました。
「違います、違います、僕のは鉄の斧です」
おじいさんはまたまた沼の中に入って、今度は鉄の斧を持って出てきました。
「これがお前のか」
「そうです、おじいさん、それが僕のです」
セドリは喜んですぐさま鉄の斧を受け取りました。
おじいさんはセドリを満足げに眺めては言いました。
「坊やは本当に正直者だ、この金と銀の斧をみな持っていきな」
セドリは金と銀の斧を受け取り、おじいさんに深くお辞儀をしました。
セドリは、沼の中に消え去るおじいさんを見送り、薪をして家に飛んで帰りました。

そして、金と銀の斧を売ってお父さんの病気を治しました。
このうわさが村中に広がり、欲張りの金持ちの耳にまで届きました。

金持ちはセドリを訪ねてきて、金と銀の斧のわけを聞き、あくる日に自分の息子に背負子を背負わせて森の中に入りました。
沼に着いた金持ちの息子は斧で音を何回か出しては、木を切り倒すふりをし、手元の斧を沼に投げては地べたに座り込んで大きな声で泣きはじめました。
すると、沼から白い髭を伸ばしたおじいさんがすっと浮かび上がって聞きました。
「お前はどうして悲しく泣くんだ」
「斧を沼に落として泣くのよ」
そしてまた大きく泣きました。
おじいさんは沼に入って金の斧を持ってきました。
「これがお前のか」
「そうよ、それが僕のだよ」
金持ちの息子はぴかぴか光る金の斧を見ると、ぴたっと泣き止んで、笑いながらそれを貰おうと両手を差し出しました。
おじいさんは金持ちの息子をにらみつけながらかんかんになって怒鳴りました。
「お前の斧が鉄の斧だと知らんと思うのか、ちびっ子がそんなに欲を張ってはなんになる」

おじいさんは沼の中に消えて、二度と現れませんでした。
すると金持ちは息子がセドリのようにしなかったので、金と銀の斧を手に入れ損なったと息子を思いっきり殴り飛ばしました。
欲張りの金持ちは金の斧をただで手に入れようとしたのが、自分の鉄の斧までなくしてしまいました。

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