昔話「怠け者の狸」

昔話「怠け者の狸」

ある山に、怠け者の狸が住んでいました。
狸は、毎日、朝から晩まで指ひとつ動かさずに、ぶらぶらと遊び暮らしていました。
いつの間に暖かい春と蒸し暑い夏も過ぎ、木枯らしが吹きすさぶ晩秋になりました。
怠け者の狸は、冬の間に過ごす穴を掘るのがいやでたまりませんでした。

「ちぇっ、どうなってもいいや、今すぐ雪が降るのでもないし、まだまだ日当たりも良いから焦ることはない、田んぼに積んであるいなむらに入っていれば、寒くもなく眠れるから心配無用」
冬が来ました。
家の無い狸は、外で荒れ狂う吹雪に耐えねばなりませんでした。
踏んだりけったりで、狩人があの山この山を探るので到底耐えることができなくなった狸は、隠れ場を探してさ迷ったあげく、否応なしに穴熊の家にかけつけました。
「穴熊のおじさん、体の置き場がなく、吹雪の中をさ迷ったあげく、訪ねてきたんだけど、助けてください」
穴熊も寒い冬に穴の出入りがいやだったので、狸をこき使おうと思いました。
でも穴熊は、悪知恵があったので、下心をさらけ出しませんでした。
「あんたもほら、ご覧の通り家が狭くてどうしようもないんだな」といっては、狸の顔をちらちらと伺いました。

「おじさん、吹雪は相手かまわないんだもの、私をちょっと助けてください、どこでもいいから、寒い冬だけ越すようにしてね」
「あんたの事情がそうだったら・・・、だけどひとつ頼みがある、俺が汗を流して穴を掘り、食べ物を取り入れるとき、あんたは遊んでだけいたんだから、あんたをただで食わせるわけにはいかないな、俺が働いた分だけでももらわねえとな」
「そりゃ、そうですよ」
「そうだったら、おれの後始末をしてくれるかな、おれはもう力が尽きてな」
「はいはい、何でもします」
それで、穴熊は狸を家に入れました。 「お腹がすいたろう、さあ、食べなよ」
「本当にありがとう」
狸は穴熊がくれる食べ物をがつがつ食べました。
その日から狸は穴熊の家で暮らしながら何から何まで仕事をしました。
ご飯を炊き、水を汲み、食器洗いと部屋の掃除、穴熊の糞まで始末しました。

「ああ、なんと惨めなんだ」
1年12ヶ月、他人のおかげで楽に暮らそうと思った狸は、惨めで愚かな自分を後悔しながら涙を流しましたが、それは後悔先に立たず、でした。

（コンテンツ―本）