長編小説「15少年物語」（7） をテンプレートにして作成
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*長編小説「15少年物語」（7） [#v0d5ee21]
これまで人が足を踏み入れたことのないようなその深い森は、...
そして無数の小鳥が、森の主人気どりで声を張りあげながら、...
それに劣らじと、虫も草むらでしきりにすだいていた。
ひと月近くも風や雨に苦しめられ、荒れる海ばかり目にしてき...
茂漢だけが岩の上に座って、金剛丸の沈んだ海面をぼんやりな...
成哲は静かに近寄ったが、なぐさめる言葉が見つからなかった。
「あんまりくよくよするなよ」&br;
「お前に、おれの気持がわかるもんか」
茂漢はいまいましそうに言った。
「わからないわけがあるか。おれだって船のことを思うと、胸...
「万洙がよくないんだ。はじめから遠まわりして船をつければ...
「万洙のせいじゃないよ。文句があればおれに言えよ」
茂漢はそれには答えなかった。
「いまさらとやかく言っても、はじまらないじゃないか」&br;
「船が沈んだのに、よくもそんなことが言えたもんだな」
茂漢の声が荒くなった。
けんかをしそうな見幕に、子どもたちが1人、2人と起きあがっ...
成哲は茂漢の気分を変えようと、なだめるように言った。
「夕食の支度を手伝わないか。早く食べて寝床を作らなくちゃ...
成哲はシラカバの木の下に戾ったが、茂漢は身じろぎもしなか...
万洙は、大きな石をシラカバの木の下に並べて釜をかけ、茂英...
茂漢は、海のかなたを見ながら泣いていた。万洙が近寄って、...
「お前はひとの気も知らないで、誰がいいの悪いのって言って...
万洙は成哲と茂漢のやりとりを、すっかり聞いたのだった。
黙りこくって海を見つめていた茂漢がいまいましそうに答えた。
「沈んだ船のことを考えると、やりきれないからさ」&br;
「それはお前だけじゃない。悲しいのはみな同じさ」&br;
「みな同じだって？ いったい船は誰のためにこわれたんだ」&...
「じゃ、おれのせいだって言うのか」&br;
「お前でなくて誰なんだ。船を島に近づけるなって言ったのに...
「それで船が沈んだってのか」&br;
「そうさ」&br;
「おい、馬鹿なこと言うな。ほんとうはな、お前のために沈ん...
「じゃ、おれのせいだって言うんだな」
茂漢はわめくように言った。
いまになってどうのこうのと争う必要はないと思って、万洙は...
「沈んだ船のことでけんかして、なんの足しになるんだ。それ...
茂漢は言葉がつまり、空を見あげた。
海鳥の群れが空をおおって飛んでいた。茂漢は小石を拾って投...
「めしが食いたかったら、枯れ枝や葉っぱを集めて来いよ」
徳善が叫んだ。けんかになってはとはらはらしていた子どもた...
「おれたちも、枯れ枝を取りに行こう」
万洙に誘われた茂漢は、軽い足どりであとにつづいた。
太陽はもう海の向こうに沈んでいた。総がかりで作った食べ物...
夕食のあと、成哲はその付近をまわってみた。南の岸べに砂浜...
子どもたちは、シラカバの木のそばでたき火をかこんだ。東の...
拾い集めて来た枯れ枝を、たき火の上に積み重ねると、火が勢...
「おれたち、いつになったら、家に帰れるんだ」
だしぬけに永洙が言った。
「船がないから帰れないよ。泳いで帰るなら別だけど、島で暮...
勇日が怒ったように答えた。
「家もないのにどうやって暮らすんだい。トラに食われちゃう...
「病気で死んでも、トラに食われて死んでも同じことさ。もう...
達柱が煙を手で払いながら、口をはさんだ。
「ひどいしけにあっても死ななかったのに、おかで死ぬものか...
京三が枯れ枝をくべながら言った。
「ふん、のんきなこと言ってる。家もなければ着るものも食う...
達柱の言葉に、みな不安にかられて黙ってしまった。パチパチ...
「どうしてさっきから、ため息ばかりついているの」
茂英が手を握って聞いたが、返事をしなかった。
「家が恋しいのね」
ヤムジョンはこっくりうなずき、涙をぬぐった。
「女のくせになんだよって、母ちゃんが止めたのに、 あたしき...
みな一緒に泣いた。
「村じゃいまも大騒ぎしてるだろうな。おれはまったく馬鹿だ...
「心配するなよ。そのうちに船が通るだろうから、間違いなく...
成哲がなぐさめるように言った。
「そう言えば、北の海で漁をしていた人たちが、何日も氷にと...
日ごろおじいさんから、海の話をよく聞いていた万洙の言葉で...
2人の話は、少しはみんなのなぐさめになった。さっきからあく...
「眠けりゃ先に寝な」
隣に座っていた徳善が、頭をなでてやった。
「今夜はどこで寝るの」&br;
「この草原で寝るしかないさ」&br;
「ここで？ あの森の中からトラが出て来たらどうするの」&br;
「おれたちが追っ払ってやるから、安心して寝な」
徳善はこう言って、乾いた草や木の葉をかき集めて敷いてやっ...
永洙は勇日と並んで寝た。少しして文基もそのそばで横になっ...
たき火は赤あかと燃えてきた。このとき森の中で「ホーホー」...
みな、ぎょっとして暗い森を見つめた。いまにも怪默が走りで...
寝ていた永洙たちは飛び起きて、たき火のそばに集まった。
今度はズシン、ズシンという足音が近づいて来たので、みなま...
ところが、急にヒュッと風をきる音がして、さっきよりもっと...
「やすを持って行ってみようか。船室にあったやすをみな持っ...
茂漢が言った。
「お前、気は確かなのか。森の中にどんなけものがいるかもわ...
達柱が目をむいて反対した。
それからだいぶ時間がたったが、妙な動物の声は二度と聞こえ...
「さっきから眠たがっていたのに、早く寝ろよ」
成哲は小さい子たちに言った。
「変な声、もう聞こえないの」&br;
「うん、どこか遠くへ行ったんだろう。今度来たらおれたちが...
「じゃ、寝るよ」
永洙が先に横になると、勇日と文基も寝転んだ。
女の子やほかの子も草の上に寝た。
満月が中天にかかった。成哲と万洙、茂漢ら数人の少年だけが...
「ひとつ相談したいことがあるんだ」
成哲がこうきりだした。
「穀物はどれくらい残ってるんだ」&br;
「粟が3斗ほどと豆が5斗、それからジャガイモが1俵あるよ」
万洙が答えた。
「芽が出ないように、よく乾かさなきゃならないんだけど、大...
「もう晴れたから大丈夫だよ。みな広げて干したから、あした...
「とにかくよく乾かすことだ。船の人たちのものをずいぶん食...
「いつ帰れるかわからないなんて、心細いこと言うなよ。すぐ...
茂漢が口をはさんだ。
「でも必ずあえるとはかぎらないよ。船には航路ってものがあ...
昌植の言葉である。
「航路を行くのは商船なんかで、漁船は違うよ。あしたは山の...
「ほかに意見はないのか」&br;
「食糧はおれが保管するが、問題は水だ。船でためた雨水がま...
「泉を探そう。きょうはみんなくたびれたから早く寝て、あし...
かれらも枯れ草を敷いて寝転んだ。夜空には星がまたたき、と...
成哲はいろいろと複雑な思いにとらわれて、なかなか寝つかれ...
「家もなければ着るものも食うものもないのに、どうやって生...
（鳥も巣があるのに、おれたちは家がなくて野宿をするなんて…）
成哲は深いため息をついた。
ザ、ザーッ。
むかしから聞き憤れた波の音だが、ことさらに物悲しく耳にひ...
そのとき誰かの忍び泣く声がした。見まわすと、エビのように...
「どうしたんだい」
成哲がそっと肩を摇すぶると、永洙は声をたてて泣いた。ちぢ...
「お前、寒いのか」&br;
「母ちやん、母ちやん」
永洙の目から、ポロポロと涙がこぼれた。
「寒いんだな」
成哲は自分の上着を脱いで、かぶせてやった。
「かまうんじゃないよ。誰がそんなもの、かぶせてくれって言...
永洙は上着を払いのけた。
「おれは寒くないから心配するな。さあ」
成哲はまた上着をかぶせ、風が入らないようにまわりを押さえ...
（おばさんも永洙のことを思って、泣いてることだろう）
永洙はまだしゃくりあげていた。
「もう泣くのはよせよ。船が来さえすれば、おれたちは帰れる...
「ほんとうに船が来るのかい」&br;
「来るとも。ここは島なんだから来ないわけがない。きっと来...
成哲が涙をふいてやると、永洙は泣きやんで、寝息をたてはじ...
成哲がうとうとしかけたとき、森の中でオオカミのほえる声が...
オオカミの声はだんだん近づいてくる。人間のにおいをかぎつ...
成哲は急いで茂漢と万洙を揺り起こした。
「どうしたんだ。なにかあったのか」
万洙が聞いた。
「オオ力ミの声を聞かなかったか。森の中で2回もほえたんだ」
成哲はその方角を指さした。
「けだものってやつは、火をこわがるから、たき火をたこう」
万洙が残り火の上に枯れ枝をおいて、息を吹きつけた。火がめ...
「オオ力ミでもトラでもやって来い。これで突きさしてやるか...
茂漢は勢いよく燃える火の前でやすをかまえた。オオカミの声...
時間がかなりたった。
「眠たいだろう。寝ろよ。また声がしたら起こすから」と、成...
「すぐ夜が明けるのに、いまさら寝るのもなんだよ。それに寒...
万洙は枯れ枝を折ってくべた。
「茂漢も寝ないのか」
「隊長はもっと疲れてるはずだ。少し横になれよ。 おれたちが...
「かまわないよ。上陸第一夜だから、一晩ぐらい夜明かしする...
成哲は、激しく燃える炎から顔をそむけながら言った。
「万洙はおれより船にも慣れてるし、おじいさんから海の話も...
「おれだって、どうしたらいいかわからないよ。とくに島にあ...
万洙は寝ている子たちを見渡して低く言った。それはいつわり...
万洙は8つのとき母を黄疸（おうだん）で失った。父も翌年の春...
最後に船に乗った日の朝、父は日ごろの無理がたたって、手足...
ところがその日はいくら探しても、魚群が見つからなかった。...
祖父は家にかつぎこまれた息子のなきがらを抱いて嘆き悲しん...
幼い万洙も泣きながら父を呼んだが、答えるはずがなかった。
祖父も若い時分は命知らずのかじとりだったが、60の峠を越し...
それで小船を借りて沿海のワカメやアワビ、ざこなどを取りな...
かれは、息子が死んだのは海の生活に慣れていないためだ、と...
万洙は、おじいさんほどよい人はいないと思った。2人は一緒に...
祖父の夢は、孫を腕ききの漁夫に仕立てることであり、万洙も...
こんなわけで、かれは小学校にも行けなかったのだ。万洙の生...
「トラにさらわれても、気さえ確かなら死なないって言うけど...
成哲の声には力がこもっていた。
3人はその夜、まんじりともしなかった。
（芸術）
RIGHT:'''2020年の記事'''
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//（芸術 2020.08.09）
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*長編小説「15少年物語」（7） [#v0d5ee21]
これまで人が足を踏み入れたことのないようなその深い森は、...
そして無数の小鳥が、森の主人気どりで声を張りあげながら、...
それに劣らじと、虫も草むらでしきりにすだいていた。
ひと月近くも風や雨に苦しめられ、荒れる海ばかり目にしてき...
茂漢だけが岩の上に座って、金剛丸の沈んだ海面をぼんやりな...
成哲は静かに近寄ったが、なぐさめる言葉が見つからなかった。
「あんまりくよくよするなよ」&br;
「お前に、おれの気持がわかるもんか」
茂漢はいまいましそうに言った。
「わからないわけがあるか。おれだって船のことを思うと、胸...
「万洙がよくないんだ。はじめから遠まわりして船をつければ...
「万洙のせいじゃないよ。文句があればおれに言えよ」
茂漢はそれには答えなかった。
「いまさらとやかく言っても、はじまらないじゃないか」&br;
「船が沈んだのに、よくもそんなことが言えたもんだな」
茂漢の声が荒くなった。
けんかをしそうな見幕に、子どもたちが1人、2人と起きあがっ...
成哲は茂漢の気分を変えようと、なだめるように言った。
「夕食の支度を手伝わないか。早く食べて寝床を作らなくちゃ...
成哲はシラカバの木の下に戾ったが、茂漢は身じろぎもしなか...
万洙は、大きな石をシラカバの木の下に並べて釜をかけ、茂英...
茂漢は、海のかなたを見ながら泣いていた。万洙が近寄って、...
「お前はひとの気も知らないで、誰がいいの悪いのって言って...
万洙は成哲と茂漢のやりとりを、すっかり聞いたのだった。
黙りこくって海を見つめていた茂漢がいまいましそうに答えた。
「沈んだ船のことを考えると、やりきれないからさ」&br;
「それはお前だけじゃない。悲しいのはみな同じさ」&br;
「みな同じだって？ いったい船は誰のためにこわれたんだ」&...
「じゃ、おれのせいだって言うのか」&br;
「お前でなくて誰なんだ。船を島に近づけるなって言ったのに...
「それで船が沈んだってのか」&br;
「そうさ」&br;
「おい、馬鹿なこと言うな。ほんとうはな、お前のために沈ん...
「じゃ、おれのせいだって言うんだな」
茂漢はわめくように言った。
いまになってどうのこうのと争う必要はないと思って、万洙は...
「沈んだ船のことでけんかして、なんの足しになるんだ。それ...
茂漢は言葉がつまり、空を見あげた。
海鳥の群れが空をおおって飛んでいた。茂漢は小石を拾って投...
「めしが食いたかったら、枯れ枝や葉っぱを集めて来いよ」
徳善が叫んだ。けんかになってはとはらはらしていた子どもた...
「おれたちも、枯れ枝を取りに行こう」
万洙に誘われた茂漢は、軽い足どりであとにつづいた。
太陽はもう海の向こうに沈んでいた。総がかりで作った食べ物...
夕食のあと、成哲はその付近をまわってみた。南の岸べに砂浜...
子どもたちは、シラカバの木のそばでたき火をかこんだ。東の...
拾い集めて来た枯れ枝を、たき火の上に積み重ねると、火が勢...
「おれたち、いつになったら、家に帰れるんだ」
だしぬけに永洙が言った。
「船がないから帰れないよ。泳いで帰るなら別だけど、島で暮...
勇日が怒ったように答えた。
「家もないのにどうやって暮らすんだい。トラに食われちゃう...
「病気で死んでも、トラに食われて死んでも同じことさ。もう...
達柱が煙を手で払いながら、口をはさんだ。
「ひどいしけにあっても死ななかったのに、おかで死ぬものか...
京三が枯れ枝をくべながら言った。
「ふん、のんきなこと言ってる。家もなければ着るものも食う...
達柱の言葉に、みな不安にかられて黙ってしまった。パチパチ...
「どうしてさっきから、ため息ばかりついているの」
茂英が手を握って聞いたが、返事をしなかった。
「家が恋しいのね」
ヤムジョンはこっくりうなずき、涙をぬぐった。
「女のくせになんだよって、母ちゃんが止めたのに、 あたしき...
みな一緒に泣いた。
「村じゃいまも大騒ぎしてるだろうな。おれはまったく馬鹿だ...
「心配するなよ。そのうちに船が通るだろうから、間違いなく...
成哲がなぐさめるように言った。
「そう言えば、北の海で漁をしていた人たちが、何日も氷にと...
日ごろおじいさんから、海の話をよく聞いていた万洙の言葉で...
2人の話は、少しはみんなのなぐさめになった。さっきからあく...
「眠けりゃ先に寝な」
隣に座っていた徳善が、頭をなでてやった。
「今夜はどこで寝るの」&br;
「この草原で寝るしかないさ」&br;
「ここで？ あの森の中からトラが出て来たらどうするの」&br;
「おれたちが追っ払ってやるから、安心して寝な」
徳善はこう言って、乾いた草や木の葉をかき集めて敷いてやっ...
永洙は勇日と並んで寝た。少しして文基もそのそばで横になっ...
たき火は赤あかと燃えてきた。このとき森の中で「ホーホー」...
みな、ぎょっとして暗い森を見つめた。いまにも怪默が走りで...
寝ていた永洙たちは飛び起きて、たき火のそばに集まった。
今度はズシン、ズシンという足音が近づいて来たので、みなま...
ところが、急にヒュッと風をきる音がして、さっきよりもっと...
「やすを持って行ってみようか。船室にあったやすをみな持っ...
茂漢が言った。
「お前、気は確かなのか。森の中にどんなけものがいるかもわ...
達柱が目をむいて反対した。
それからだいぶ時間がたったが、妙な動物の声は二度と聞こえ...
「さっきから眠たがっていたのに、早く寝ろよ」
成哲は小さい子たちに言った。
「変な声、もう聞こえないの」&br;
「うん、どこか遠くへ行ったんだろう。今度来たらおれたちが...
「じゃ、寝るよ」
永洙が先に横になると、勇日と文基も寝転んだ。
女の子やほかの子も草の上に寝た。
満月が中天にかかった。成哲と万洙、茂漢ら数人の少年だけが...
「ひとつ相談したいことがあるんだ」
成哲がこうきりだした。
「穀物はどれくらい残ってるんだ」&br;
「粟が3斗ほどと豆が5斗、それからジャガイモが1俵あるよ」
万洙が答えた。
「芽が出ないように、よく乾かさなきゃならないんだけど、大...
「もう晴れたから大丈夫だよ。みな広げて干したから、あした...
「とにかくよく乾かすことだ。船の人たちのものをずいぶん食...
「いつ帰れるかわからないなんて、心細いこと言うなよ。すぐ...
茂漢が口をはさんだ。
「でも必ずあえるとはかぎらないよ。船には航路ってものがあ...
昌植の言葉である。
「航路を行くのは商船なんかで、漁船は違うよ。あしたは山の...
「ほかに意見はないのか」&br;
「食糧はおれが保管するが、問題は水だ。船でためた雨水がま...
「泉を探そう。きょうはみんなくたびれたから早く寝て、あし...
かれらも枯れ草を敷いて寝転んだ。夜空には星がまたたき、と...
成哲はいろいろと複雑な思いにとらわれて、なかなか寝つかれ...
「家もなければ着るものも食うものもないのに、どうやって生...
（鳥も巣があるのに、おれたちは家がなくて野宿をするなんて…）
成哲は深いため息をついた。
ザ、ザーッ。
むかしから聞き憤れた波の音だが、ことさらに物悲しく耳にひ...
そのとき誰かの忍び泣く声がした。見まわすと、エビのように...
「どうしたんだい」
成哲がそっと肩を摇すぶると、永洙は声をたてて泣いた。ちぢ...
「お前、寒いのか」&br;
「母ちやん、母ちやん」
永洙の目から、ポロポロと涙がこぼれた。
「寒いんだな」
成哲は自分の上着を脱いで、かぶせてやった。
「かまうんじゃないよ。誰がそんなもの、かぶせてくれって言...
永洙は上着を払いのけた。
「おれは寒くないから心配するな。さあ」
成哲はまた上着をかぶせ、風が入らないようにまわりを押さえ...
（おばさんも永洙のことを思って、泣いてることだろう）
永洙はまだしゃくりあげていた。
「もう泣くのはよせよ。船が来さえすれば、おれたちは帰れる...
「ほんとうに船が来るのかい」&br;
「来るとも。ここは島なんだから来ないわけがない。きっと来...
成哲が涙をふいてやると、永洙は泣きやんで、寝息をたてはじ...
成哲がうとうとしかけたとき、森の中でオオカミのほえる声が...
オオカミの声はだんだん近づいてくる。人間のにおいをかぎつ...
成哲は急いで茂漢と万洙を揺り起こした。
「どうしたんだ。なにかあったのか」
万洙が聞いた。
「オオ力ミの声を聞かなかったか。森の中で2回もほえたんだ」
成哲はその方角を指さした。
「けだものってやつは、火をこわがるから、たき火をたこう」
万洙が残り火の上に枯れ枝をおいて、息を吹きつけた。火がめ...
「オオ力ミでもトラでもやって来い。これで突きさしてやるか...
茂漢は勢いよく燃える火の前でやすをかまえた。オオカミの声...
時間がかなりたった。
「眠たいだろう。寝ろよ。また声がしたら起こすから」と、成...
「すぐ夜が明けるのに、いまさら寝るのもなんだよ。それに寒...
万洙は枯れ枝を折ってくべた。
「茂漢も寝ないのか」
「隊長はもっと疲れてるはずだ。少し横になれよ。 おれたちが...
「かまわないよ。上陸第一夜だから、一晩ぐらい夜明かしする...
成哲は、激しく燃える炎から顔をそむけながら言った。
「万洙はおれより船にも慣れてるし、おじいさんから海の話も...
「おれだって、どうしたらいいかわからないよ。とくに島にあ...
万洙は寝ている子たちを見渡して低く言った。それはいつわり...
万洙は8つのとき母を黄疸（おうだん）で失った。父も翌年の春...
最後に船に乗った日の朝、父は日ごろの無理がたたって、手足...
ところがその日はいくら探しても、魚群が見つからなかった。...
祖父は家にかつぎこまれた息子のなきがらを抱いて嘆き悲しん...
幼い万洙も泣きながら父を呼んだが、答えるはずがなかった。
祖父も若い時分は命知らずのかじとりだったが、60の峠を越し...
それで小船を借りて沿海のワカメやアワビ、ざこなどを取りな...
かれは、息子が死んだのは海の生活に慣れていないためだ、と...
万洙は、おじいさんほどよい人はいないと思った。2人は一緒に...
祖父の夢は、孫を腕ききの漁夫に仕立てることであり、万洙も...
こんなわけで、かれは小学校にも行けなかったのだ。万洙の生...
「トラにさらわれても、気さえ確かなら死なないって言うけど...
成哲の声には力がこもっていた。
3人はその夜、まんじりともしなかった。
（芸術）
RIGHT:'''2020年の記事'''
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//（芸術 2020.08.09）
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