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昔、あるお山で動物たちの力比べがありました。
夜明けから栗の木谷の芝生に多くの動物たちがあつまりました。
審判係りのウサギが呼子を吹くと試合が始まりました。
初戦に出たのは今日の力比べで優勝は問題ないと豪語したクマとイノシシ。
動物たちは二組に分かれて大騒ぎしながら応援しました。
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この時、「うぉー」という吠え声と共に一匹のトラが現れました。
「この野郎ども、山の王さまのわしにも知らせず、ここに集まって何してるんだ？」
審判係のウサギがわけを話すと、トラは目に角を立てて怒鳴りました。
「何だと、力比べ？！ 力比べなどするまでもない、お山の大将はわしに決まってる！」
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力持ちのクマとイノシシも怖気づいて後ずさりし、皆が怖くてぶるぶる震えました。
この時、意外なことにハリネズミが潔く前に出てきました。
「誰が勝つか負けるかは勝負してみなければ、話だけではわからない！」
「こら、目にもとまらない小さい奴がわしに歯向かうとは？！」
「そうだ！どうしようというんだ？！」
怒り出したトラは足でハリネズミを力いっぱい踏みました。
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ところが「あっ！」と、トラが悲鳴を上げました。
ハリネズミの針に刺されたトラの足から真っ赤な血が滴り落ちました。
トラは痛くて痛くて前足を抱えたまま、跳びあがりました。
「どうだ、いいだろう？！」
ハリネズミはトラをあざ笑いました。
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怒り心頭に発したトラは口を大きく開いて襲い掛かりました。
「何だと、この野郎！直ちに噛み潰してしまうだろう！」
みながもう、否応なしにハリネズミは噛み潰されてしまうだろうと思い、目を瞑りました。
この時、ボールのように跳ね上がったハリネズミがトラの急所の鼻筋にちくりと針を刺してしがみつきました。
「あっ！」
目の前が真っ暗になったトラは悲鳴をあげ、鼻先を抱えてじたばたしましたが、ハリネズミは息つく暇を与えず、連続刺しました。
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トラは気が気でありません。
慌てふためいたトラはハリネズミを鼻筋につけたまま、狂ったように走りました。
突然のことなので、動物たちはみな面食らった様子でした。
そしてトラが去った丘のほうへ追いかけていって我先にと首を長くして眺めました。
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峠を越えて栗の木谷に差し掛かると、ハリネズミが大声で叱り付けました。
「こら！二度とこの小山*1で一番の力持ちだと威張りやがって、悪事に走るつもりか」
「違います、どうか、一度だけお許しくださればわしが二度とそんな・・・」
トラは涙までぽろぽろ流しながら許しを請いました。
「よし、では今日は賭け事をしたことにしよう、二度と小山に現れて意地悪したら許さないぞ！」
トラは頭をもたげることもできず、心から許しを請いました。
そのときになって初めてハリネズミは膨れ上がったトラの鼻筋からすっと飛び降りました。
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「やっと助かった！」
へとへとになったトラは栗の木の前まで来てとうとうへたばりこんでしまいました。
ちょうどその時、そよ風にいがぐりが一つポツリと落ちて、トラの鼻筋をちくりと刺しました。
びっくりしたトラはぶるぶる震えました。
「ハリネズミ様、さっきは許してくださるとおっしゃいながら、どうしてまたわしの鼻筋を刺すのですか、一度だけお許し下さい」
いがぐりをハリネズミと見間違えたトラは前足をすり合わせながら拝みました。
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いがぐりの前に這いつくばって拝み続けていたトラは気が遠くなり、「ハリネズミだ！」と叫びながらどこかへ逃げてしまいました。
「わっはは」栗の木谷に笑い声が響きました。
お山の動物たちは、これ以上力比べをする必要がありませんでした。
「今日の力比べで1位になったハリネズミさんに金の首飾りを上げましょう」
拍手喝さいがあの山、この山にこだましました。
（コンテンツ―本）
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