忘れえぬ故郷での一日

忘れえぬ故郷での一日

ピョンヤンには万の景色をめでる所という意味の万景台、マンギョンデ*1があります。ここに偉大な金日成主席が誕生して幼年時代を送った生家があります。

10代にして日本帝国主義に奪われた国を取り戻すために故郷のマンギョンデを後にした金日成主席は国の解放の歴史的偉業を成し遂げ、20年ぶりに故郷を訪れました。血みどろの抗日武装闘争の中で片時も忘れたことのない生家の庭に足を踏み入れた主席は感無量の面持ちでした。

見慣れた生家の軒を眺めると、幼い頃、子守歌を歌い、凍えた手を息で温めてくれた父と母が走ってきて、両手を広げて抱きしめてくれるようで、気軽に足を踏み出すことができませんでした。

ポソン*2のまま庭に走り出てきた祖父は、主席を抱きしめ、「帰ってきたのか、よく顔を見せてくれ、顔を」と、涙に暮れました。祖母も「父さんと母さんはどこへ残して、お前一人で帰って来たのだい。どうして一緒に帰って来なかったのかい」と声をあげて泣くのでした。

祖父と祖母は一緒に来られなかった一家の人たちの思いで胸がつぶれるようでした。そんな祖父と祖母の姿を見て主席は心を痛めました。主席は祖父と祖母に孝行を尽くすことができず、申し訳ないと言いました。

すると祖父は「そんなことを言うもんじゃない。お前の父さんが果たせなかった朝鮮の独立をお前がやり遂げたのだから、それが孝行というもんじゃ。それにまさる孝行がどこにある。国と民に尽くすことが孝行なんじゃ」と答えました。

国と民に尽くすことが孝行、正にこれがマンギョンデ一家の家風というもので、座右の銘でもありました。

主席は祖父の話がありがたく、また国の独立のために全てを尽くした家族のことが偲ばれてなりませんでした。その日の夜、主席は20年ぶりに故郷の家で祖父、祖母と一緒に休むことになりました。

深夜、祖母は主席に国も解放されたのだから、中国の満州にある父さんと母さんの墓も移してこなくてはと言いました。主席は他郷の土の下に眠るわが子たちの骨を郷里に移して葬りたいと願う祖母の気持ちを充分理解していました。

しかし主席は、おばあさん、墓を移すのも大事ですが、私にはそれより先に捜さなければならない恩人がいます、ヨンポ里の居酒屋でお父さんを救ってくれたファンさんと、カドク嶺のチョンジュのキム老人、傷寒にかかった私を死境から救い出してくれたチョ老人たちを捜したいのです、その方たちを捜した後で、墓を移すつもりです、と言いました。

祖母は「よく言った。そうしたら陽地村に眠る父さんも喜ぶだろうよ」と言いました。

忘れえぬ故郷の家での一夜、これを通して一家への孝行より、国と人民への孝行を先ず思う偉大な金日成主席とマンギョンデ一家の崇高な愛国心、愛国の家風がよく分かります。